はっきりしている因果関係
アリス・ミラーの The Body Never Liesを引き続き読んでいる。
アドルフ・ヒトラーがユダヤ人の祖父から虐待を受けて育ちそれが後年のユダヤ人憎悪に繋がったという説は読んだことがあった。
でも三島由紀夫の生育歴は知らなかった。
ミラーが著述家とその作品から推察できる幼児期のトラウマの影響について書いている。
三島由紀夫の切腹も、アルチュール・ランボーの破滅的な生き方も、プルーストの喘息も
非情な扱い(三島の場合は祖母、父から、ランボーは母、ドストエフスキーは父....)がなければ慢性的な疾患も悲痛な最期もなかっただろう。
作家達が、では、純粋な愛情に恵まれて充分に保護された幼児期を送っていたら、彼らは創作には逃避せず「普通」の人生を送って
そして我々は彼らの芸術作品に触れられなかったか。
そうじゃない。
もっと創造的なもっと彼らの感覚の細部までを描いた作品を生産的に書いてくれていただろう。
それが出来ないもどかしさからくる怒りは破壊的なものだったろう。
問題はすごく単純だと思う。
物語や運命なんてものではなく接した保護者の態度がこどもに反映されてるだけだ。
凄惨な事件や頻発する虐待もそこから始まってる。
愛されなかったこどもの悲劇は凄まじく
「その怒りは全世界を破壊せずにはいられない」(ミラーの著作にあった表現)。
それだけ単純なことなのに人はどうして
今すぐこどもに優しく穏やかに接することが出来ないんだ。
自分自身それを体験しなかった大人にそれはできない、屈折した心理がその単純な行為から大人を遠ざける。
不思議なのはこれだけ因果関係がはっきりしているのに
自殺者がでるようなクラスぐるみのいじめや
通り魔事件、暴力やneglectによる虐待の加害者がどのように育てられたかを
もっと調査、公表して、問題の根を見ないのかということだ。
統計はたくさんとれるだろうから
もっと「どうしてこうなったか」「どうしたらこんなことになるのか」を多くの人がしるべきだ。
ミラーが自著の前書きで述べている。
米国のジャーナリストが父親から受けた仕打ちで、父を許さないと述べた、そのジャーナリストのもとには
脅迫のような手紙が多く寄せられたそうだ。まだ社会は問題の根を直視する用意ができていなかった。
ミラーによれば、保護者を許すように誘導し和解を画策するセラピーは
有害ですらあるという。
親は決して「よかれと思い」やったのではなく
精神的に非情に未熟で、自分のこどもに愛情を注げなかったこと
そして親であってもそのようなことをした人間を許したり敬ったりする必要なないとはっきり述べている。
「間違っていたのはあなたではなく親や社会の方で
あなたは親を許す必要も、自分を責める必要も無い」と言われていたら、
感受性をもった100%自分の側に立ってくれる味方がいたら、
どれだけの人が、破壊的な行為を思いとどまり悲痛な思いから救われただろう。
The Body Never Lies: The Lingering Effects of Hurtful Parenting
- 作者: Alice Miller,Andrew Jenkins
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
- 発売日: 2006/08/01
- メディア: ペーパーバック
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